「禅宗」とはどんな宗派かご存知でしょうか。
実は、日本の仏教の中で「禅宗」という単一の宗派があるわけではありません。
今回は聞いたことはあるけれども、意外と正しい知識を持つ方が少ない「禅宗」についてのお話です。
禅宗の概要や特徴、禅宗の教えを受け継ぐ宗派として代表的な「曹洞宗」「臨済宗」の葬儀の流れや特徴などについてもご紹介します。
目次
禅宗とはどんな宗派?
禅宗とは、座禅を用いた修行で自己を鍛えて悟りを開くことを目的とした仏教宗派の種類で、日本では「曹洞宗(そうとうしゅう)」「臨済宗(りんざいしゅう)」「黄檗宗(おうばくしゅう)」の3つの宗派が該当します。
たまに「私の宗派は禅宗です」と、禅宗を仏教宗派の一つと思っている方がいますが、日本の仏教宗派の中に禅宗という宗派があるわけではありません。
「禅」の教えはインドに始まり、インド人僧侶の達磨大使が6世紀の前半に中国に広めました。
その後、鎌倉時代に栄西とその弟子の道元が中国禅の教えを日本に伝え、栄西は臨済宗、道元は曹洞宗を開きます。
江戸時代には明の隠元が伝えた禅の教えを元として黄檗宗が開かれました。
禅宗の大きな特徴は、正しい姿勢で座り精神統一をする「座禅」の修行を重視するところです。
禅宗の座禅では、体と呼吸と心を整える「調身、調息、調心」にて、精神統一を行うのが特徴です。
調身は身を調えること、調息は呼吸を調えること、調心とは心を調えることを意味します。
禅の教えは経典や言葉で伝えるものではなく、弟子たちが修行を経て自ら会得するものと考えられていることからも、座禅が重要視されています。
臨済宗では対面形式で座禅、曹洞宗では中国式の壁に面した座り方と違いがあることを知っておきましょう。
禅宗の葬儀のお経について
禅宗の葬儀で多く読まれるお経は「般若心経(はんにゃしんぎょう)」です。
般若心経は全600巻から成る「大般若経」という経典を262文字にまとめたお経です。
大般若経は、西遊記に登場する三蔵法師のモデルと言われている玄奘(げんじょう、げんぞう)がインドから中国に持ち帰り、サンスクリット語で書かれていたものを漢語に訳したそうです。
般若心経は正式名称を「摩訶般若波羅蜜多心経(まかはんにゃはらみたしんぎょう)」と言います。
般若は智慧(ちえ)を、波羅蜜多は対岸に渡ることを意味し、智慧によって悟りの世界にたどり着き、心に平安をもたらすための教えを説いています。
般若心経では、「全てのものごとは同じ状態に定まっているわけではなく、常に変化し続けている」と説き、常に変化し続けるものごとに執着することが悩みや迷いを生み出していると考えられています。
例えば、「若さ」に執着しても人は必ず老いていきますし、「恋人」に執着しても恋心がいつまでも変わらずに維持されることはありません。
このように、常に変わり続けるものごとに執着してもそれがむくわれることは難しいため、執着を捨てることで心の平安が得られると説いているのです。
ちなみに、禅宗の中でも黄檗宗の読経は他の宗派と異なり、中国語を基本とした唐音(とういん)という読み方をします。
例えば般若心経は一般的に「まかはんにゃはらみたしんぎょう…」と読みますが、黄檗宗では「ポゼポロミトシンキン…」となります。
禅宗で代表的な曹洞宗・臨済宗のお通夜
禅宗の中で最も大きな宗派は、日本全国に約1万5千の寺院と、8百万人の信者を有する曹洞宗です。
曹洞宗の次に大きな宗派は、寺院数約5千6百、信者数約百万人を有する臨済宗となります。
ここでは、禅宗を代表するこの2宗派のお通夜について、読まれるお経の種類を中心にご説明していきます。
曹洞宗のお通夜
臨終諷経(りんじゅうふぎん)
故人を安置した後、故人の枕元で僧侶に読経していただく「枕経(まくらきょう)」のことを、曹洞宗では「臨終諷経(りんじゅうふぎん)」と呼びます。
臨終諷経で読まれるお経は、お釈迦様の遺言とも言われる遺教経(ゆいきょうぎょう)や、曹洞宗の開祖である道元の火葬の際にも読まれたという舎利礼文(しゃりらいもん)です。臨終諷経は家族や近しい親族など、故人とごく親しかった方達が同席します。
通夜式
曹洞宗の通夜式では、僧侶が読経をあげる儀式を通夜諷経(つやふぎん)と言います。通夜諷経で読まれるお経に決まりはありませんが、 道元が著した「正法眼蔵」から重要な部分を引用してまとめられた修証義(しゅうしょうぎ)が読まれることが多いようです。読経後には法話が行われ、その中で故人の戒名の由来について説明があります。
臨済宗のお通夜
枕経諷経(まくらきょうふぎん)
故人を安置した後、故人の枕元で僧侶に読経していただく「枕経(まくらきょう)」のことを、臨済宗では「枕経諷経(まくらきょうふぎん)」と呼びます。
枕経諷経では、観音様の名前を唱えることで、観音様が必ず救ってくださると説く「観音経」や、千手観音菩薩を賛える真言「大悲心陀羅尼(だいにしんだらに)」、仏や菩薩、高僧などを讃える「和讃」等を読誦します。
通夜式
通夜では前出の「遺教経(ゆいきょうぎょう)」の他、父母から受けた恩に報いることを諭す「父母恩重経(ぶもおんじゅうきょう)」や、臨済宗妙心寺派の本山「妙心寺」が昭和四十年に発表した「宗門安心章(しゅうもんあんじんしょう)」などが読まれます。
禅宗で代表的な曹洞宗・臨済宗のお葬式
禅宗の葬儀は、故人が死後お釈迦様の弟子になるために行われる宗教儀礼です。
そのため、お釈迦様の弟子になるために必要な戒名や戒法を授かるための「授戒(じゅかい)」と、故人を仏の道へ導くための「引導」が葬儀の中心となります。
授戒
故人の生前の行いの懺悔や仏への帰依を誓う儀式、血脈授与などを行い、故人が仏の弟子となります。
引導
故人を仏の世界に導くための儀式です。僧侶が棺の前で経文や法語を読み上げます。
また、葬儀の中で太鼓やシンバルのような鈸(はつ)という仏具を大きく打ち鳴らし、音楽と共に故人の魂を送り出すというのも曹洞宗と臨済宗に共通する特徴です。
曹洞宗・臨済宗のお葬式の流れと注意点とは
曹洞宗と臨済宗の大まかなお葬式の流れと、それぞれのマナーや注意点についてご紹介します。
曹洞宗のお葬式の流れやマナー
曹洞宗のお葬式の流れ
僧侶の入場後、授戒儀式、読経、焼香と続き、お経を唱えた後に太鼓や繞鈸(にょうはつ)と呼ばれる仏具を打ち鳴らして鼓鈸三通(くはつさんつう)を行います。
引導法語の後は経典を唱え、鉢を打ち鳴らしながら出棺します。
曹洞宗の焼香は2回、線香は1本立てるのが一般的
曹洞宗の焼香は2回です。
抹香をつまんでから1回目は額に押し頂いて香炉にくべ、2回目は押し頂かずに香炉にくべます。
香典袋の表書きは「御仏前」または「御香典」
曹洞宗では亡くなった方は葬儀の中ですぐに仏の弟子となります。
そのため「霊」という概念はなく、「御霊前」という言葉は使いません。
曹洞宗のお葬式の流れやマナー、焼香の方法などについてはこちらの記事でも詳しくご紹介しています。
参考:曹洞宗の葬式の特徴と流れ。知っておきたい作法やマナーについて
臨済宗のお葬式の流れやマナー
臨済宗のお葬式の大まかな流れ
授戒、念誦(ねんじゅ:経典などを唱えること)、引導法語の流れで葬儀が進行。
授戒、引導法語の後に読経の中焼香を行い、喪主が会葬者へのあいさつをします。
鈸や太鼓などを鳴らしながら出棺します。
臨済宗の焼香は3回、線香は1本のみ立てる
臨済宗の焼香は三宝(仏・法・僧)に供養するという意味で3回行うと言われていますが、葬儀に参列している方が多ければ時間の関係もありますし、心を込めて1回としても問題ありません。
線香をあげる時には1本のみ立ててあげます。
臨済宗のお葬式の流れやマナーについてはこちらの記事でも詳しくご紹介しています。
禅宗で代表的な曹洞宗・臨済宗の仏壇の祀り方
禅宗と言っても同じ宗派ではないため、仏壇の祀り方は異なります。また、同じ宗派であっても分派ごとに祀り方が異なる場合もあります。仏壇を祀る際はご自身の宗派の作法に則って祀りましょう。
曹洞宗の仏壇の祀り方
天井
吊灯籠もしくは瓔珞(ようらく)を吊り下げます。
上段
上段中央にお釈迦さまの像(本尊)をまつります。お釈迦さまだけでも問題ありませんが、お釈迦様に向かって右側に承陽大師、向かって左に常済大師(脇侍)をまつる場合もあります。
上段には位牌も祀りますが、本尊や脇侍が隠れてしまわないように配慮する必要があります。お釈迦さまに向かって右に古い位牌を、向かって左に新しい位牌をまつりましょう。
中段
中段にはお供え物を置きます。お供え物は、香り(線香)、お水、花、灯明、飲食(お霊膳、果物、菓子、嗜好品など)の五供(ごくう)が基本となります。
下段
向かって左から花立て、香炉、ロウソク立ての三具足(さんぐそく)を置きます。過去帳も下段に置きます。
経机
経机にリン、数珠(じゅず)、経本、香炉、線香立て、マッチ消し等を置きます。
木魚は木魚座布団に乗せて床に置くことが多いようです。
臨済宗の仏壇の祀り方
天井
吊灯籠もしくは瓔珞(ようらく)を吊り下げます。
上段
一般的には上段中央にお釈迦さまの像をまつります。お釈迦様に向かって右側に開山無相大師など、向かって左に開墓花園法皇などをまつり、仏飯器、茶湯器を置きます。
中段
中段には花立て、香炉、ロウソク立ての三具足を置き、位牌をまつります。仏壇に向かって右に古い位牌を、左に新しい位牌をまつりましょう。
下段
下段には高杯、霊膳、過去帳を置きます。
経机
経机にリン、数珠(じゅず)、経本、香炉、線香立て、マッチ消し等を置きます。
木魚は木魚座布団に乗せて床に置くことが多いようです。
※臨済宗には多くの分派があり、それぞれ祀り方が異なります。
※仏壇の祀り方は地域や寺院によって変わる場合があるため、詳しくは菩提寺にご相談ください。
禅宗の葬儀費用
禅宗の葬儀費用
仏教の他の宗派の葬儀費用と禅宗の葬儀費用に大きな差はありません。仏式葬儀の費用については、宗派による違いよりも葬儀形式や葬儀規模による違いが大きいと言えます。
一般的に親族や参列者が多いお葬式では費用が高額となる傾向にありますが、その分香典も増えるため、葬儀規模がそのまま実際の支出に直結することにはなりません。
葬儀形式別の費用相場は以下の通りです。尚、下記の金額にお布施は含まれていません。
一般葬の費用
家族葬が定着する以前に一般的に行われていた葬儀形式で、友人、知人、近所の方、仕事関係者など多くの方が参列するお葬式です。一般葬では約120~160万円程度が相場です。
家族葬の費用
故人と関係性が深い遺族や親族が参列する葬儀形式です。「家族葬」というネーミングから家族だけが参列するというイメージを持つ方も多いのですが、親しい友人等が参列する場合もあり、厳密な定義があるわけではありません。
家族葬では約80~140万円程度が相場です。
一日葬の費用
従来のように通夜の翌日を告別式として2日間かけて執り行う葬儀ではなく、通夜を行わずに告別式だけを執り行う葬儀形式を一日葬と言います。
会場使用料が一日分ですむことや通夜振舞いの費用がかからないことから、通夜と告別式を執り行う一般的な葬儀と比較すると費用が安くなる傾向にあります。一日葬では約40~80万円程度が相場です。
お布施の相場
2017年に発表された「日本消費者協会 葬儀についてのアンケート調査」によると葬儀のお布施の全国平均金額は47万円ですが、お布施の相場は地域によって大きく異なります。
まとめ
「禅宗」とは個別の宗派の名前ではなく、中国禅宗の教えを元として悟りを開くために座禅の修行を重要視している仏教宗派の種類のことをいいます。
現在の日本の仏教宗派では曹洞宗、臨済宗、黄檗宗の3つが該当します。インドで発祥した禅の教えが中国で発展し、その後日本へ伝わりそれぞれ3つの宗派として発展しました。
禅宗は座禅の修行を重視し、体と呼吸と心を整える「調身、調息、調心」にて精神統一を行います。
禅宗の宗派として代表的な曹洞宗と臨済宗のお葬式では、故人が仏の弟子となるために必要な戒名を授かる「授戒」、故人を仏の道へ導く「引導」を中心として葬儀式が執り行われるのが特徴です。
葬儀を持ってすぐに仏の弟子となる禅宗の考え方には「極楽浄土」や「四十九日で成仏する」という考え方はなく「霊」という概念がないため、香典袋には「御霊前」という表書きも用いられません。
同じ禅宗の流れをくむ曹洞宗と臨済宗でも、お葬式や法要、地域でも細かな作法やマナーは異なる場合があります。
作法などで不明な点がある場合は事前に寺院に確認しておくと安心ですね。
お葬式のご相談からお急ぎのご依頼まで「北のお葬式」にお任せください。
24時間365日いつでも対応いたします。