仏壇にお参りをする際に使用する仏具。信仰心が強い方が多い年配の世代にとっては馴染み深い道具ですが、時代の変化にともない、仏具の種類や用いられる理由を知らないという方も増えて来たようです。
いざ仏具を揃えたり使ったりする必要にせまられた時に、どうしたら良いのかと戸惑う方も多いと思います。
そこで今回は仏具の名称や使われる意味、宗派別の飾り方など、仏具について詳しくご紹介します。
目次
お参りの対象となる仏具
仏壇を「お参りをする場所」と認識していても、具体的に何にむかってお参りをしているかはわからないという方も珍しく無いと思いますので、はじめに、仏具の中でも最も重要な「お参りの対象となる仏具」をご紹介します。
本尊(ほんぞん)
信仰の対象。曹洞宗は釈迦如来、浄土真宗は阿弥陀如来というように、本尊は宗派によって異なり、仏壇において最も重要と言っても過言ではないくらい大切な仏具です。
脇侍(きょうじ・わきじ)
本尊の左右に控え、本尊の教化(人々を善に導くこと)を助ける役割を持ちます。
位牌(いはい)
故人の戒名を記した木製の牌。僧呂が魂入れを行うことで、故人の魂が宿るとされています。
過去帳(かこちょう)
位牌を用いない浄土真宗では、過去帳に戒名を記して仏壇に置きます。
遺影
仏具ではありませんが、仏壇や仏壇周辺に遺影を飾り、故人やご先祖さまを偲ぶご家庭が多くあります。
以上がお参りの対象となる仏具です。事項ではこの「お参りの対象となる仏具」に対して参拝を行う際に必要となる、基本の仏具についてご紹介します。
基本の仏具の種類と意味
ご家庭の仏壇でお参りをするために必要な最低限の仏具は香炉(こうろ)、燭台(しょくだい)、花立(はなたて)の3種類です。
この3種類を併せて三具足(みつぐそく・さんぐそく)と呼びます。三具足は仏教において大変重要となる仏具です。
ここでは、それぞれの仏具の使い方や意味についてご説明していきます。
香炉(こうろ)
香炉は線香を焚くための器で、中に灰を入れて使います。仏教では「線香の煙が故人の食べ物になる」と考えられている他、「お参りをする人の心身を清める」「あの世とこの世をつなぐ」などを目的として線香を焚きます。
故人に供えることや室内に香が広がることを考えると、お線香はできるだけ良い香りがするものを選ぶことをおすすめします。
燭台(しょくだい)
燭台はロウソク立てのことです。仏壇にロウソクの炎が灯っている様子は、皆さんにとっても見慣れた光景なのではないでしょうか。
仏教においてロウソクの炎は「世の中の真理」を象徴していて、ロウソクを灯すことで、真理を知る仏様の導きを受けることができると考えられています。
また、ロウソクの炎にはあの世とこの世を繋ぐ役割があるとされています。この他に、仏壇の周りを浄化するためにロウソクを灯すという説もあります。
ロウソクには、煙が少なく火持ちの良い和ロウソク、価格が安い洋ロウソクの他、消し忘れ対策のための燃焼時間の少ないロウソクや、食べ物や飲み物をかたどったロウソクなど、様々な種類があるので、ご自身の好みに合わせて使い分けてみると良いのではないでしょうか。
花立(はなたて)
花立は花を生ける花瓶のことです。厳しい自然の中で美しく咲き続ける花は、修行によって悟りを開くことを目指す仏教の教えに繋がるものがあると考えられています。
また、お経の中に、「お釈迦様が前世で修行していた時に仏さまに出会い、ご供養のためにお花を買ってお供えした」というお話があり、そのこともお花をお供えする理由の一つになっているようです。
仏壇に供える花を選ぶ際には、毒やトゲがある花、香が強すぎる花、すぐに枯れてしまう花は避けた方が良いでしょう。
仏様に供えるという意味から、触ると痛みを感じるトゲがある花は供花に適さないとされていますし、彼岸花やすずらん等の毒がある花も、仏に毒を供えることになるとされているからです。
香の強い花はお線香の香りを邪魔してしまうこと、すぐに枯れてしまう花は仏壇を美しく保つために妨げとなってしまうことから、この二つも仏花には適さないと言えるでしょう。
その他の仏具の種類と意味
ここまでにご紹介した仏具の他にも、仏教では様々な目的を持って多くの仏具が使われています。
ここでは「お参りの対象となる仏具」「三具足」以外の仏具の種類や、それぞれの持つ意味についてまとめました。
りん
お椀型の鈴で、仏前で手を合わせる時やお経を唱える際に鳴らします。
りんはもともと禅宗(曹洞宗・臨済宗・黄檗宗)で使われていた仏具ですが、現在では宗派を問わず使われています。
宗派によって鏧(きん)、小鏧(しょうきん)、鐘(かね)など異なる名称があります。
木魚(もくぎょ)
読経の際にリズムを整えるために使いますが、真言宗・浄土真宗では使いません。
また、日蓮宗では木魚ではなく木鉦(もくしょう:円形の法具)を使う場合が多いようです。
木魚は、魚をかたどった「魚板」を原型としていると言われ、「眠らない魚(魚は眠っていても目を閉じないが、かつては眠らないと思われていた)のように、寝る間を惜しんで修行をしなさい」という教えを基に生まれたという説があります。
茶湯器(ちゃとうき)
茶湯器とは、水やお茶をお供えするための蓋付きの湯呑です。
阿弥陀如来のいる極楽浄土には八つの功徳を持つ水「八功徳水」が満ちているとしている浄土真宗では、お水やお茶をお供えする必要がないとしていますが、供養の気持ちから茶湯器を使う場合もあります。
仏飯器(ぶっぱんき)
ご飯をお供えするための器。陶器、銅、ガラス、ステンレス、木製など様々な素材が用いられています。
仏飯器の中にはご飯を盛る部分を取り外すことが可能なものもあり、そのようなタイプは手入れがしやすいというメリットがあります。
仏器膳(ぶっきぜん)
仏器膳とは、茶湯器や仏飯器をのせるためのお膳のことをいいます。
伝統な形のものや、モダン仏壇に合うデザインのもの、家具調のものなど、豊富なデザインの仏器膳があり、仏壇のタイプに合わせて選ぶことができます。
高杯(たかつき)
高坏とは、お菓子や果物などをお供えするために使う脚の高い器です。脚の高さは仏様を敬う気持ちを表していると言われています。
線香立て
線香立ては、線香差しとも呼ばれ、使用前の線香を立てて収納するための仏具です。
火消し(ひけし)
ロウソクの火を消すために使う仏具。小さなうちわ型のタイプや、帽子のような形で火の上からかぶせて消火するタイプ、先が平べったいトングのような形で、ロウソクの芯をつまんで消すタイプなどがあります。
火消しを用意しない場合は手で仰いで消しますが、そうすると来客がお参りした際に不便を感じさせてしまう可能性があるため、ひとつ用意しておくと安心できるでしょう。
吊灯籠(つりとうろう)
吊灯籠とは、仏壇の天井に吊るして本尊や仏壇の中を明るく照らす仏具です。上置き型と呼ばれるコンパクトな仏壇にはあまり用いられません。
瓔珞(ようらく)
瓔珞は、仏壇を飾るために用いられる装飾品で、一般的に対(2個セット)で飾ります。
瓔珞はもともと古代インドの王族が身に着けていた装身具ですが、後に仏教に取り入れられ、菩薩の仏像の首飾りや胸飾りとして用いられるようになりました。
菩薩は釈迦が出家する以前の姿を表しているため瓔珞を身につけていますが、菩薩より位の高い如来は悟りを開いた釈迦の姿を表しているため、瓔珞などの装身具を身に付けておらず、衲衣(のうえ:捨てられたボロ布で作った袈裟)だけを身に付けた姿となっています。
なお、瓔珞も吊灯篭と同様に上置き型の仏壇ではあまり用いられません。
常花(じょうか)
常花は金属製の造花で、「枯れない花」「永遠に咲き続ける花」を表しています。浄土真宗では飾りません。
霊供膳(りょうぐぜん・れいぐぜん)
霊供膳とは、命日やお彼岸、お盆などにお供えする精進料理用の器とお盆のセットのことをいい、浄土真宗では使用しません。
基本の仏具の配置や飾り方
仏壇の飾り方は、宗派だけでなく、寺院や地域によって異なる場合がありますので、ここでは基本的な飾り方についてご紹介します。
併せて、仏壇を用意する際に行う必要がある開眼供養(かいげんくよう)についてもお話します。
基本の仏具の配置・飾り方
基本の仏具としてご紹介した、香炉(こうろ)、燭台(しょくだい)、花立(はなたて)の「三具足」は並べ方が決まっています。
仏壇に向かって左から花立、香炉、燭台の順に並べましょう。
また、基本の三具足に花立と燭台を一つずつプラスした五具足(ごぐそく)は正式な仏壇飾りとされていて、仏壇中央に香炉を置き、その両側に燭台、燭台の外側に花立を置きます。
正式な飾りは五具足とされていますが、近年はコンパクトな仏壇をお持ちのご家庭も多く、仏壇のサイズによっては五具足を飾ることが難しい場合もあるため、普段は三具足でお勤めをして、年忌法要などでは五具足を使用するといった方法を選ばれる方も増えています。
仏壇の開眼供養について
仏壇を購入した際は開眼供養を行います。開眼供養は、開眼法要、魂入れ、入魂式などとも呼ばれる法要です。
開眼供養は、僧侶の読経によって本尊や位牌に魂を宿らせるための儀式で、仏教では、開眼供養をしていない本尊や位牌はただの「物」とされており、開眼供養をすることではじめて「物」から「礼拝の対象」に変化すると考えられています。
開眼供養の際は自宅で菩提寺の僧侶に読経をしてもらいます。自宅で行うことが難しければ、購入した本尊や位牌を持参して、お寺で読経をしてもらうことも可能です。
ただし、浄土真宗の方が仏壇を購入した場合はこの限りではなく、仏法に触れる機会を得たことを祝うために、入仏法要(にゅうぶつほうよう)や御移徙(ごいし・おわたまし)と呼ばれる法要を行います。
新しい仏壇をお迎えすることは仏教的におめでたいこととされています。
そのような理由から、開眼供養の際、宗派によっては白いろうそくではなく赤い和ろうそくを使用する場合があるため、事前に菩提寺に確認することをおすすめします。
宗派別の仏具と正しい飾り方
仏具の中には宗派によって異なる物があるため、宗旨ごとの仏具についてご紹介します。
信仰の対象となる本尊や脇侍(きょうじ・わきじ)は仏具の中でも重要度が高く、自身が信仰する宗派と異なる本尊や脇侍を祀ってしまうことは避けましょう。
いずれの宗派も飾り方は、仏壇の最上段中央に本尊を祀り、その両脇に脇侍を祀ります。本尊を隠さないために、位牌は左右に置くか、一段下の段に置きます。
ただし、仏飯器、茶湯器、高杯や三具足などは宗派によって置き方が異なります。
浄土真宗
浄土真宗では、人は亡くなるとすぐに浄土に迎えられ仏になるとされています。
そのため、他の宗派と違い、故人の魂が込められた位牌を用意して供養する必要はないと考えられています。
浄土真宗のほとんどの教団では供養のために位牌を用いることはなく、「法名軸」や「過去帳」に故人の法名(戒名)を記して仏壇に置きます。
位牌を用いないだけでなく、浄土真宗で使用される仏具は他の宗派で使われる仏具と異なります。
本尊
浄土真宗では阿弥陀如来(極楽浄土にいる仏様)を信仰することで、極楽浄土に往生できるとされています。
脇侍
- 本尊に向かって右:親鸞聖人または十字名号「帰命尽十方無碍光如来」
- 本尊に向かって左:蓮如上人または九字名号「南無不可思議光如来」
輪灯(りんとう)
輪灯とは、天井から吊るす灯明です。輪灯の形状は教団により異なります。
供笥(くげ)
供笥とは、お菓子などをお供えする器のことをいいます。
華瓶(けびょう)
華瓶とは、水を入れて樒(しきみ)もしくは青葉を挿す花瓶のことをいいます。
木蝋(もくろう)
木蝋とは、朱色に塗られた木製のロウソクのことをいい、火をつけずに立てておきます。
御分箱・御文章箱(おふみばこ・ごぶんしょうばこ)
御分箱や御文章箱とは、蓮如上人の手紙を納める箱のことをいいます。
鶴亀燭台(つるかめしょくだい:大谷派のみ)
亀の上に乗った鶴が蓮軸をくわえている形をした燭台のことを鶴亀燭台といいます。
※使用する仏具は地域や宗派によって異なりますので、詳しくは菩提寺に確認されることをおすすめします。
天台宗
天台宗では、特定の本尊を定めていないことが大きな特徴です。
本尊
釈迦如来、阿弥陀如来、観世音菩薩など様々な本尊が祀られます。
脇侍
- 本尊に向かって右:天台大師(智者大師)
- 本尊に向かって左:伝教大師(最澄)
真言宗
真言宗では、ご本尊様が印象的な姿をしていることが大きな特徴です。
本尊
「宇宙そのもの」「宇宙の中心」などと表現される「大日如来」を祀り、釈迦如来や阿弥陀如来、大日如来の化身と考えられています。
他の如来が質素な姿をしているのに対し、大日如来は装身具を身につけたきらびやかな姿となっています。
脇侍
- 本尊に向かって右:弘法大師
- 本尊に向かって左:不動明王または十三仏
浄土宗
本尊
浄土宗では阿弥陀如来(極楽浄土にいる仏様)を信仰し、「南無阿弥陀仏」の念仏を唱えて極楽浄土への往生を願います。
脇侍
- 本尊に向かって右:善導大師
- 本尊に向かって左:圓光大師(法然)
曹洞宗
本尊
仏教の開祖であるお釈迦さま「釈迦如来」をお祀りします。
脇侍
- 本尊に向かって右:承陽大師(道元)
- 本尊に向かって左:常済大師(瑩山)
臨済宗
本尊
臨済宗では本来本尊を定めていませんが、一般家庭では釈迦如来をお祀りすることが多いです。
脇侍
- 本尊に向かって右:開山無相大師・達磨大師
- 本尊に向かって左:観世音菩薩など
日蓮宗
本尊
如来(仏様)を本尊とする他の宗派とは違い、日蓮宗では日蓮が描いた「十界曼陀羅」を本尊としています。
「お釈迦様の教えは全て法華経に込められている」と考えた日蓮が描いた十界曼荼羅には、法華経の真実が描かれているとされています。
脇侍
- 本尊に向かって右:鬼子母神
- 本尊に向かって左:大黒天
一般的な仏具の価格相場
仏具の価格は、大きさ、素材、デザイン、ブランドなど様々な要因によって大きく異なり、安価なものから高級なものまで幅広く販売されています。
仏壇・仏具店はもちろん、ホームセンターでも取り扱っている場合がありますが、はじめて仏壇を購入する場合は宗派による違いや必要なものについてアドバイスを受けたいと思う方も多いため、専門店を利用すると安心です。
インターネット通販では以下の価格で販売されていますので、購入の際は参考にしてみても良いでしょう。
- 位牌:3,500円(文字入れは別料金)くらいから10万円くらいまで
- 本尊・掛け軸:1,200円くらいから10万円くらいまで
- 仏像:3,000円くらいから数十万円まで
- 三具足:小さなもので1,000円くらいから高価なものは30万円くらいまで
- 五具足:小さなもので1,500円くらいから高価なものは60万円くらいまで
仏具の修理や買い替えについて
仏具を買い換える時期について特に決まりはありませんが、「古くなった」「変色してしまった」「仏壇を買い替えてサイズが合わなくなった」という場合、仏具の買い替えや修理を検討することになります。
修理に出す場合は、販売店や専門業者に依頼します。事前に見積りを取り、修理は可能か、費用はどの程度かかるのかを確認しましょう。
修理するよりも手頃な価格の仏具を購入した方が費用が抑えられる場合もあるので、ご自身やご家族の気持ち、ご家庭の状況などを考慮しながら検討すると良いでしょう。
新しく購入する場合、宗派ごとに使われる仏具の種類を間違いないようしっかり確認する必要があります。
仏壇は「家の中の小さなお寺」とも言われるように、仏教において大切な信仰の対象です。
使われる仏具が壊れていたり、壊れてはいなくても古くなりすぎて汚れていたりすることのないよう、しっかりお手入れしながら、必要に応じて買い替えや修理を検討しましょう。
仏具の処分方法
仏具を買い替える際、古くなった仏具の処分はどうすれば良いか迷う方も多いでしょう。
魂が込められた本尊や位牌は「魂抜き」や「閉眼供養」と呼ばれる供養をする必要があるため、僧呂に依頼して魂を抜いてもらいます。
お焚き上げを行っている寺院では、魂を抜いた本尊や位牌をお焚き上げしてもらえる場合もありますが、近年は環境に配慮してお焚き上げを行わない寺院もありますので、事前に確認すると良いでしょう。
魂を抜いた位牌や本尊は自治体のルールに従って廃棄することもできますが、それでは気持ちがすっきりしないという場合は、お焚き上げの専門業者に依頼することも可能です。
その他の仏具には魂が込められているわけではないので魂抜きは必要ありません。自治体のルールに則って処分するか、お焚き上げに対応した業者へ依頼してください。
まとめ
仏具には、信仰の対象となる本尊や位牌のほか、お参りのために最低限必要となる三具足、三具足に花立と燭台を一つずつプラスした五具足など、多くの種類があります。
仏具の種類や飾り方は宗派によって異なります。特に浄土真宗における仏具の種類は他の宗派と異なる点が多く、中でも供養のために位牌を用いないことは大きな特徴と言えるでしょう。
浄土真宗以外の宗派も、信仰の中心となる本尊や脇侍はそれぞれ異なるため、購入する前にしっかり確認することが大切です。